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日本ソムリエ協会関東支部第2回例会参加(vol.2)
2010-05-04 Tue 18:14
前回の展示試飲会に続き、日本ソムリエ協会マスターソムリエ、高橋 時丸氏によるセミナーの模様をレポートします。
高橋 時丸さんといえば、現在のソムリエ協会の小飼一至会長や田崎真也副会長らとソムリエ協会を立ち上げた重鎮であります。と書くとなにやら怖い人のような印象がありますが、人柄はいたって気さくで、現役バリバリのソムリエさんたちの緊張感のある話というよりは、かなりくだけた感じの、ある種の悟りを開いたという域に達した感のある楽しくも含蓄のある講演でありました。
この日のテーマは「ワインと味覚」ということで、ワインの個性を決める要素としての「土地」、「気候」、「人間」について、また味覚の要素として「人間の五官の役割」主に脳による認識により味覚がどのように違ってくるのか、さらにワインの味わいを変化させる要素として「場所」、「時間」、「人」、「目的」、「サービス」などが味覚にどのように影響するのか、などなど範囲としてはかなり広く、かつ奥の深い内容でありました。

これだけの内容を2時間で網羅するには当然時間が足りず、駆け足での講演となったのですが、以下そのポイントを挙げていきます。単語のみの羅列にしてしまうと、せっかくの面白い話が味気ないのですが、全部書くととんでもない量になりますので。

◆ワインの個性を決める要素
●ぶどうも農作物であり、それを作る場所=「土地」により個性が決まる。
・『位置』:「緯度」-ボルドーは北緯44.7度で北極と赤道のちょうど真ん中。「海」、「山」、「川」との位置関係により様々な影響を受ける。
・『高さ』:「標高」-ブルゴーニュは約250m、シャンパーニュは100~150m。100mの標高差で気温は0.7~1.0℃違う。長野は山梨に比べ産地の標高が高く寒暖差がある。
・『形状』:「傾斜地」-北部の優れた産地(畑)は傾斜地、グラン・クリュのほとんどは東向きか南東向き、欠点は畑が小さくしか作れないこと。「平地」-畑は大きく作れ、太陽も均等に当たるので、平均的によいぶどうが出来る。しかし、個性に乏しく「ゆとり教育」みたいなもので、特に優れたぶどうは出来ない。
・『土壌』:土の成分、土の温度、保水力
●気候
・『温度』:暖かければよいものではない。ゆっくり長い時間をかけて熟した方が良い。
・『雨』:年間400mmが適当。ボルドーは900mmと多いが、砂利質で水はけが良い(ただし表面は乾いていても地下水面は高いので注意)。カリフォルニア、チリは200mmと少ない→水を撒きコントロールできる→ヴィンテージの差があまりない。「湿度」-霧→貴腐ワイン。「風」-霧をとばす→湿度の多いところでも乾燥させる働き。
●人間
・「歴史」、「伝統」、「文化」や、造り手の「愛情」、「美意識」が大きく影響。
・「経済力」-新樽一個が6~7万円、60haで200樽必要。莫大な投資資金が必要。
・「技術力」-造り手は一年に一回のチャンスしかない。60年間造ったとしても60回しかできない。試すのにも限界がある。

この辺までは、割合淡々と話は進んできたのですが、徐々に高橋節が顔を出し、思わずニヤリとしてしまいます。

・『栽培』:事前に配られたレジメには、「使用品種」、「単一とアッサンブラージュ」、「栽培密度」、「オーガニック」、「農薬」、「クローン選抜」、「剪定法」、「収穫期」、「収穫量」などという単語が並んでいたのですが、それらについての詳しい解説はなく、「毎日毎日畑で実際ぶどうを育てている農家の人の知識に、我々がかなうはずがないですよ…」、「年に何回かしか畑を見ることのない飲む側が、栽培技術について云々いってもあまり意味がないですね」。これは本だけの知識で分かった気になるなよ、という戒めでしょうか。
・『醸造』についてもレジメには、「選果」、「圧搾率」、「果汁調整」、「亜硫酸量」、「醗酵漕」、「醗酵温度」、「酵母」、「醸しの温度と時間」、「マロラクティック醗酵」などと、これだけでも解説に数時間かかりそうなところなのですが、「あまり技術に頼り過ぎると個性がなくなっておもしろくないですね…」、「ガングロの化粧をするとモトがなんなのか分かんなくなるのと一緒ですね…」と、さらりと流していきます。これも醸造技術が発達し、それが駆使されるようになり、どこの国でも同じようなワインが造られるようになった現状への批判でしょうか。
・『熟成』も同じように沢山の単語が並んでいるのですが、一言「これは個人の好みの問題ですね…」。
このあたりになると禅問答のようで、まるで『神の雫』の土肥ロベールが話をするとこんな感じになるのでは?という雰囲気になってきました。

◆そして次に、この日最も参考になった「味覚の要素」へと続いていきます。
・人間の脳による認識は、「視覚」が最も重要な役割を果たしていて、実に87%を占めている。それに続いて「聴覚」が7%、「触覚」が3%、「臭覚」が2%であり、「味覚」による情報認識はたった1%にすぎない。
「味の感じ方は、個人によっても違うし、国によってもその生活習慣によって違います」、
「全ての人が美味しいと感じることは難しいですね…」、「ただ、人間が本能的に必要とされるものは美味しいと感じるんですね」、「それは『甘さ』、『脂肪』、『うまみ成分(アミノ酸)』で、大阪の食べ物に多いですね、特にタコ焼きなどは典型的ですね」
「音には『絶対音感』がありますが、味覚というのはあくまで相対的なもので、点数はつけられないものなんですね。」、「ワインを点数で評価する雑誌(評論家も)なんてロクなもんじゃないですね、おっと、否定的なことを言ってはいけませんね…」(場内爆笑)
なるほど、人間が二足歩行を始めたときから、高いところから辺りを見渡すために、「視覚」は発達しましたが、逆に地面を嗅ぎまわることが無くなったために、「臭覚」は衰えたそうです。だから犬は「臭覚」は人間の何万倍もいい反面、視力は弱いということです。
そして五官の中でも「味覚」が占める要素はたった1%しかないという、とても曖昧なものであったことには驚きました。
・「舌にある『味蕾』という味を感じる部分は、若いうちの方が数が多く、歳をとると段々少なくなってきます。75歳になると20歳代の三分の一にまで減ってしまいます」、「それでもテイスティングによる判定が出来るのは、『経験』があるからなんですね」、「風邪をひいて『臭い』が分からなくても、『外観』である程度の予測はできます。ワインの色と香りは関連していますからね」
・「ワインの魅力は『香り』が50%を占めていると思います」、「でも香りはすぐに慣れてしまい分からなくなります。これは脳が疲れてしまうからなんですね、だから自分の家の臭いは自分には分からないものなんです…」
・「『触感』によっても味は変わってきます。例えば牛乳をグラスで飲むのと茶碗で飲むのでは味が違ってきます」このことはリーデルのワイングラスがそのワインによって形状が違うことでも説明がつきます。
・そして『味』の要素である「甘み」、「酸味」、「塩味」、「苦味(渋味・辛味)」、「旨味」、「風味」、「後味」などそれぞれの要素の相互作用などの話があり、最後の「ワインの味わいを変化させる要素」へと続きます。

◆ワインの味わいを変化させる要素
『場所』-「飲む場所によっても味は変わってきます。自宅の3LDKでグラン・クリュクラスのワインを開けるのは、自宅に叶姉妹が来るみたいで不釣合いですね。3LDKにはそれに合うワインの方が美味しいですね。」
「例えば同じコーヒーでも、壁の色が違うと味が違うのですよ。コーヒーの場合は茶色の壁の方が美味しく感じます。マックのように黄色い壁だと味が薄く感じてしまいます」
『時間』-「朝は味覚が一番敏感なんですね、だから朝はあっさりとした料理を食べるのです。夜は鈍感になるので、味の濃い料理が美味しく感じるのです。ワインも一緒で、夜は重いワインが美味しく感じるのです」
『人』-「個人の味覚要素」:「その世代による『食育環境』、『教育』、『慣れ』、『習慣』によっても違ってきます。我々の世代と、今の若いソムリエ達とでは明らかにワインの好みも違っています。これはその環境により味覚も作られていくということです」
『情報要素』-「シャンパーニュなどは特にそうですが、もうブランド名で美味しいと感じてしまうのですね。ブラインドでシャンパーニュの銘柄なんて当てられませんよ。もうブランド名で味も決まるようなものです」
・「どこそこの有名なソムリエが勧めたとか、評論家の評価が高かった…、などという情報も、それによりそのワインが美味しく感じるようになるのであれば付け加えてあげればいいと思います…」
・「ワインというのは、褒めながら飲むことにより美味しくなるのですね。評論家と一緒に飲んでも美味しくないですね。やれ醸造の仕方がどうのとか、そんな話を聞きながら飲んだら不味くなりますよ」(爆笑)「ワインを褒めながら飲むということは、最低限のマナーなんですよ」
・「『想い出』や『思い入れ』といったことでも味は変わってきます。好きな人と一緒に飲んだワインは美味しく感じるし、好きな人との『想い出』のワインともなると特別な思い込みがそこに生まれてきます。逆に嫌な人と飲んだワインは美味しくないという先入観が生じてしまいます」
『目的』-「例えばお客様がご夫婦の場合だと、あまり高いワインはお勧めしません。しかし若い女の子が『パパ』と呼ぶようなカップルだと、高いワインをお勧めします」(爆笑)「これはですね、決して儲けようと思って高いワインをお勧めするわけではないですよ。それは、そのお客様は高いお金を払うことに満足を感じていらっしゃるわけなので、敢えて高いワインをお勧めするわけなんです」(大爆笑)

◆この日のテイスティング
講演の方が大いに盛り上がり、あっというまに時間が過ぎてしまったため、この日のテイスティングはあまりじっくりと評価をする時間がありませんでしたので、詳しいコメントは割愛します。

      協会セミナー試飲ワイン01

      協会セミナー試飲ワイン02
①ジネステ・ボルドー・樽熟・ブラン 2007  ACボルドー
②ムートン・カデ・レゼルブ・グラーヴ 2007  ACグラーヴ
③ジネステ・ボルドー・樽熟・ルージュ 2006  ACボルドー
④ムートン・カデ・レゼルブ・サンテミリオン 2006 ACサンテミリオン

この日、出されたワインはボルドーの赤・白が二つずつ。「ジェネステ」の方が赤・白ともに樽熟成をかけているタイプ。もう一方の「ムートン・カデ」は赤・白ともに樽熟成してないタイプになります。こうして比較試飲してみると、赤・白ともに樽がどのようなニュアンスをワインに付け加えるかがよく分かります。そして、それはどちらが良いというわけではなく、それぞれに良いところがあるものだということが分かります。

この日の講演を聴いたまとめとしては、ワイン(他のお酒や食べ物もそうでしょうが)の味わいには絶対的な点数による評価などはなく、あくまで相対的な評価に過ぎないこと。それは人によっても違うし、同じ人であっても場所や時間、まわりの環境によって違ってくる極めて曖昧なものであること。したがってその時の状況に応じて、それに合ったワインを楽しみながら味わえばいいこと…、などでしょうか。
これまで自分では出来るだけ「真剣」にワインと向き合う飲み方を心掛けてきたつもりだったのですが、なんだか「もっと肩の力を抜いて、ワインを楽しんでみたら?」と言われているような気がしました。でもおそらくそのような境地も、「真剣」に向き合って来た人だからこそ到達できた境地なのかもしれません。
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